― 遺伝と文化が生んだ“戦い方”の違い
◆ プロローグ:同じ風邪でも、治し方が違う?
ある患者さんがこんなことを言っていました。
「アメリカでホームステイしていた時、ホストファミリーは風邪をひくとすぐ抗生物質を飲んでました。でも、日本では“栄養とって寝なさい”って言われるのが普通ですよね」
世界にはいろんな治し方があります。
でも、その背景には文化や歴史、そして「免疫」への考え方の違いがあることは、あまり知られていません。
今回は、東洋と西洋、2つの文明が育んできた“免疫の哲学”の違いをテーマに掘り下げてみましょう。
◆ 「免疫」とはそもそも何か?
まず基本から確認しましょう。
免疫とは、体に入ってきた異物(ウイルスや細菌など)を排除したり、自分の体内バランスを保ったりする“自己防衛システム”のことです。
ただし、「どう防衛するか?」という戦い方のデザインが、東洋と西洋ではまるで違ってきました。
◆ 西洋医学の免疫観:外敵を“攻撃”せよ
西洋の免疫観は、19世紀の細菌学の発展とともに形成されました。
ルイ・パスツールの「病気の原因は微生物である」という発見から始まり、
西洋医学は病原体を「敵」とみなし、それを攻撃・排除する思想を強めていきます。
その結果、どうなったか?
- ワクチン:病原体に備える“訓練兵”のような技術
- 抗生物質:侵入者を一斉掃討する“化学兵器”
- ステロイド:炎症(=体の戦い)を鎮圧する“指令ストップ”
つまり西洋医学の免疫戦略は、明確な敵を設定し、それを排除することを中心に構築されているのです。
これは、キリスト教的世界観(善と悪の二元論)や、近代科学の「分けて観察する」姿勢とも親和性があります。
◆ 東洋医学の免疫観:乱れを“調える”ことがすべて
一方、東洋医学における免疫の捉え方は、攻撃より調和に重点があります。
古代中国の医学書『黄帝内経』には、こんな言葉があります。
「正気存内、邪不可干」
(=体に“正しい気”が満ちていれば、外からの邪気は入ってこれない)
つまり病気は、「何かが侵入したから起きた」のではなく、体内のバランスが崩れて、入り込める隙ができたから起きたと考えるのです。
だから、東洋医学では:
- 風邪=“風の邪”によるバランスの崩れ
- 発熱=“内の熱”が外に出ようとする自然反応
- 咳=“肺の気の乱れ”から起こる調整信号
こうした症状を**排除するのではなく、“整える”**のが本来の治療です。
◆ 「戦う免疫」vs「調える免疫」:イメージ比較
比較項目 | 西洋医学 | 東洋医学 |
---|---|---|
病気の捉え方 | 病原体が体に侵入することで発症 | 体内のバランスが乱れているから発症 |
免疫の役割 | 異物を攻撃・排除する | 気・血・水の流れを調える |
アプローチ | 薬で症状を抑える/敵を殺す | 鍼灸や漢方で体を整え、自力回復を促す |
対象 | 主に症状 | 体全体+心の状態も含めた“人間まるごと” |
◆ 遺伝的背景にも違いがある?
近年の研究では、西洋人と東洋人の腸内細菌叢(マイクロバイオーム)にも違いが見られています。
たとえば:
- 日本人は海藻を分解する酵素を持つ腸内菌を持つ(西洋人にはほぼいない)
- 欧米人は乳製品を分解しやすい腸内構成になっている
- 食文化と腸内環境が相互に免疫機能を調整している
つまり、免疫の“反応の仕方”そのものが、文化的・遺伝的背景に影響されているのです。
◆ グローバル化が“両方に無理”を起こしている現代
現代社会では、食・医療・生活リズムが急速に「西洋化」しました。
その結果、多くの人が以下のような不調を抱えています:
- アレルギー・自己免疫疾患の増加
- 慢性炎症(いつもだるい、眠れない)
- 精神的ストレスが体に現れる“心身症”
これはまさに、「西洋型の免疫観」だけでは立ち行かない社会になってきた証です。
◆ 世界が再び注目する「東洋的免疫観」
いま、世界中の医療現場で東洋医学への関心が高まっています。
- WHOが鍼灸を正式な医療手段として認定
- 欧米の研究者が「漢方薬や鍼灸が副作用を少なく免疫を整える」ことに注目
- COVID-19流行時、多くの東アジア圏で“自然療法”が注目された背景
「排除ではなく、調整」
この考え方は、今後の免疫医療の中核になる可能性を秘めています。
◆ 鍼灸ができること:調整型免疫を支える施術
当院で行っている鍼灸は、まさにこの「東洋型免疫観」をベースにしています。
✔️ 体の中で“過剰に働きすぎている”部分をゆるめる
✔️ “滞っている”気血水の流れを促す
✔️ 自律神経と免疫の連携を回復させる
現代人は、戦うことばかりに慣れて、休むこと・調えることを忘れています。
鍼灸は、免疫に“おやすみ”と“目覚め”のタイミングを静かに教える施術です。
◆ まとめ:「免疫は戦う力ではなく、生きる力」
- 西洋医学の免疫=外敵と戦う「軍隊」
- 東洋医学の免疫=体内の秩序を保つ「庭師」
どちらが正しい、ではありません。
今の社会には、両方が必要です。
でも、今のあなたの体が疲れているなら、
少しだけ「調える力」に耳を傾けてみませんか?
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