「マッサージに行くと一時的に楽になるけど、翌朝にはもう重い」「強く揉んでもらわないと効いた気がしない」「もう何年も肩こりと付き合っている」── こうした悩みを抱えて当院に来院される方は非常に多くいらっしゃいます。
この記事では、施術歴32年の鍼灸師が「なぜ揉んでも戻るのか」を筋肉の構造から解き明かし、深層筋鍼法という独自のアプローチを解説します。
なぜマッサージで揉んでも翌日には戻るのか
肩の筋肉は、大きく分けて2つの層で構成されています。
表層筋(アウターマッスル)── 僧帽筋・三角筋など。身体の表面に近く、指で触れやすい筋肉です。マッサージや整体で「揉む」のは、主にこの層。揉めば血流が良くなり、一時的に楽になります。
深層筋(インナーマッスル)── 多裂筋・回旋筋・後頭下筋群・板状筋など。骨のすぐ近くに張り付いている筋肉で、関節を安定させ、姿勢を維持する役割を担っています。指では物理的に届きにくいのが特徴です。
表面のコリをほぐすのは「雑草を刈る」こと。深層筋鍼法は「根っこごと抜く」こと。根が残っていれば、また同じ場所に生えてきます。
マッサージで表層筋をほぐしても、その奥にある深層筋のコリが残ったままでは、表層筋はすぐにまた引っ張られて硬くなります。これが「揉んでも翌日には戻る」メカニズムです。
つまり、慢性肩こりの「本丸」は表層筋ではなく、その奥にある深層筋にあるのです。
慢性肩こりの「本丸」── 硬くなる4つの深層筋
① 後頭下筋群 ── 「頭の重さ」を最前線で受け止める
頭蓋骨と第1・第2頸椎をつなぐ4対の小さな筋肉。人間の頭は約5〜6kgあり、スマホを見る前傾姿勢では首にかかる負荷が3倍以上に跳ね上がります。後頭下筋群はこの負荷を最前線で受け止めているため、デスクワーカーやスマホユーザーほど無自覚に硬くなっています。
② 板状筋(ばんじょうきん)── 首を支える「柱」
後頭部から頸椎・胸椎にかけて走る筋肉で、頭を正しい位置に保つ役割を担います。猫背やストレートネックの方では板状筋が常に引き伸ばされた状態になり、慢性的に硬くなります。僧帽筋の奥にあるため、マッサージでは直接ほぐしにくい部位です。
③ 多裂筋(たれつきん)── 背骨ぎわの「鋼線」
背骨の一つ一つの椎骨をつなぐ深層筋。脊柱の安定に不可欠ですが、長時間の座位や不良姿勢で過緊張が続くと石のように硬くなり、首から肩甲骨にかけての重だるさを生みます。背骨に密着しているため、指で揉んでも到達できません。
④ 肩甲挙筋(けんこうきょきん)── 「肩をすくめる」筋肉
頸椎から肩甲骨の上角につながる筋肉。ストレスや緊張で無意識に肩をすくめるクセがある方は、この筋肉が慢性的に短縮しています。「肩の上が盛り上がっている」「首と肩の付け根がガチガチ」という方は、肩甲挙筋の深層部が硬くなっている可能性が高いです。
これら4つの深層筋に共通するのは、骨のすぐ近くにあり、指では届かないということ。だからこそ、マッサージでは根本解決に至らないのです。
深層筋鍼法 ── 骨ぎわのコリに鍼で直接届ける
| マッサージ・指圧 | 一般的な鍼灸 | 深層筋鍼法 | |
|---|---|---|---|
| 到達する層 | 表層筋 | 表層筋〜中間層 | 深層筋(骨ぎわ) |
| 後頭下筋群・多裂筋 | 届かない | 浅い鍼では不十分な場合あり | 直接到達できる |
| 効果の持続 | 数時間〜1日 | 数日 | 根本のコリが溶けるため長期持続 |
| 鍼の太さ | ─ | 0.16〜0.20mm | 0.20mm(注射針の約1/3) |
| 特徴 | リラクゼーション効果が高い | ツボへの刺激で全身を調整 | コリの中心を触診で特定し、1本ずつ溶かす |
深層筋鍼法の最大の特徴は、触診でコリの「中心点」を特定してから鍼を進めることです。やみくもに鍼を刺すのではなく、指で丁寧に探り、最も硬い一点に向かって0.2mmの鍼を1本ずつゆっくり進めます。
鍼がコリの中心に到達すると、「ズーン」という独特の響き(ひびき)が出ます。これは鍼がコリに当たったサイン。この響きの後、硬かった筋肉がふわっとゆるむ── 患者さんの多くが「コリが溶ける感覚」と表現されます。
鍼の太さは直径0.2mm。髪の毛とほぼ同じ細さで、注射針(約0.7mm)の約1/3です。「鍼は怖い」と思われる方も、実際に受けると「思ったほど痛くなかった」とおっしゃる方がほとんどです。
当院の慢性肩こり施術 ── 3技術で「表面」と「根っこ」を両方ほぐす
当院では、慢性肩こりに対して3つの技術を段階的に組み合わせます。
STEP 1. あん摩マッサージ指圧── まず表層筋(僧帽筋・三角筋など)の緊張を手技でほぐし、血流を回復させます。これにより鍼の効果が深層まで伝わりやすい状態を作ります。
STEP 2. 深層筋鍼法── 本丸である深層筋(後頭下筋群・板状筋・多裂筋・肩甲挙筋)のコリに、触診で特定した一点に向けて鍼を進めます。1本ずつゆっくり進め、「響き」が出るまで丁寧にアプローチします。
STEP 3. YNSA(山元式新頭鍼療法)── 頭皮上のポイントに鍼を刺し、脳の血流改善と自律神経のバランスを調整。深層筋鍼法との相乗効果で、コリの戻りにくい状態を作ります。特にストレス性の肩こりには、このYNSAの併用が効果的です。
施術時間は90分〜120分程度。「表面を整える → 根っこを溶かす → 脳・自律神経を調整する」という3段階で、マッサージだけでは到達できなかった深層のコリにアプローチします。
改善の一般的な経過
※改善の速度や程度には個人差があります。以下は一般的な傾向としてご参照ください。
| 時期 | 変化の傾向 |
|---|---|
| 初回直後 | 「首が回る」「肩が軽い」という即時的な変化。施術後は身体がポカポカし、その夜ぐっすり眠れたという方が多い。 |
| 2〜4回目 | 「戻り」が遅くなる。以前は翌日に戻っていたコリが、3日→5日→1週間と持続するようになる。深層筋のコリが徐々に溶け始めている段階。 |
| 5〜8回目 | 肩こりを「忘れている時間」が増える。頭痛や眼精疲労など、肩こりに連動していた症状も軽減。「強く揉んでほしい」という感覚がなくなる。 |
| 8回目以降 | 月1回のメンテナンスで良い状態を維持。デスクワーク後に軽い張りを感じる程度で、以前のような「ガチガチで動かない」状態には戻らなくなる。 |
実際の改善事例は肩こりの症例集もあわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 強く揉むマッサージに慣れているのですが、深層筋鍼法は物足りなくないですか?
深層筋鍼法は「強い刺激」ではなく「深い刺激」です。コリの中心に鍼が到達したときの「ズーン」という響きは、強揉みとは全く違う感覚ですが、施術後の「軽さ」と「持続性」の違いに驚かれる方がほとんどです。むしろ、強揉みに慣れていた方ほど「こんなに違うのか」と実感されます。
Q. 肩こりに鍼は痛くないですか?
鍼の太さは直径0.2mm。髪の毛とほぼ同じ細さで、注射針の約1/3です。「チクッ」とする程度で、ほとんどの方が初回から安心して受けられています。痛みに不安がある方は、最初はマッサージの比率を多めにすることも可能です。
Q. どのくらいの頻度で通えばいいですか?
慢性肩こりの場合、最初の1〜2ヶ月は週1回のペースが理想的です。深層筋のコリは長年かけて形成されたものなので、一定の間隔で繰り返し鍼を入れることで「戻り」を少しずつ小さくしていきます。コリの持続時間が長くなってきたら2週に1回、月1回とペースを落としていけます。
Q. 肩こりがひどくて頭痛も出ているのですが、対応できますか?
対応できます。慢性肩こりからくる頭痛は、後頭下筋群や板状筋の過緊張が原因であるケースが多く、まさに深層筋鍼法の得意分野です。また、パニック障害や自律神経の乱れと肩こりが連動している方にも対応しています。
「揉んでも戻る」を終わりにするために
慢性肩こりは「体質だから仕方ない」と諦めている方が多い症状です。しかし、その肩こりが「表層筋しかほぐしていなかった」ことが原因だったとしたら── 深層筋にアプローチすることで、状況は変わります。
雑草を何度刈っても生えてくるのは、根が残っているから。深層筋鍼法は、その根っこに直接届く唯一の方法です。
「何年もマッサージに通い続けている」「強揉みでないと効かなくなった」── そうした方にこそ、一度試していただきたい施術です。
UPCOMING EVENT
2026年6月27日(土)〜28日(日)
深層筋鍼法ワークショップ in 札幌
深層筋鍼法の創始者・角谷敏宜先生(なおし家鍼灸院 院長)が来札。
2日間の集中ワークショップで、深層筋鍼法の理論と実技を直接学べます。
対象:鍼灸師・鍼灸学生
この記事を書いた人
湯川 研一(ゆかわ けんいち)
ゆかわ鍼灸マッサージ治療院 院長。鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師(国家資格3種保有)。施術歴32年、延べ4万人以上の施術実績。深層筋鍼法 第5期鍼灸師養成コース修了。YNSA(山元式新頭鍼療法)治療師。札幌市中央区にて、慢性肩こり・腰痛・パニック障害・脳卒中後遺症を中心に施術を行う。
